FC2ブログ
トキワ、シュウマツドリ
創作置き場
憫然たる妹の手記
今夜も、兄の発作が治まらない。
一晩つきっきりでの看病は、もう3日も続いているだろう。
兄の発作は、今になって始まった話ではない。幼少から、度々深夜酷く魘されては、朝になってもなかなか目覚めず、昼過ぎにやっと意識は現実に戻る。
幼くして両親を失くし、金も知識もない私達が、医者にかかれる訳もない。生活するだけでも、手一杯だというのに。
一体、兄の病気はなんなのだろうか。
人は、よく兄を「悪魔に取り憑かれている」と言う。本当にそうなのだとしたら、何故兄に取り憑いたのだろうか。

最近、気づいたのだが、兄の発作は以前のものとは変化していた。
以前は、唸り声のようなものを上げ、荒い呼吸を繰り返し、ただただ恐怖を抱くばかりだったそれが、最近は違うのだ。
苦しそうに唸るのは変わりない。しかし、まったく聞き覚えのない誰かの名前を呼ぶのだ。
いや、聞き覚えがないといえば、嘘になるかもしれない。その名前に、私はどこか懐かしさを感じていた。
それがまた、恐怖なのだ。その、見ず知らずの誰かに、兄は取り憑かれているのか?
そういえば、兄の変化はこれだけではなかった。兄は、魘されながら、涙を流すようになったのだ。
誰かの名前を呼びながら、まるで梅雨の雨のように、しとしとと涙が頬を伝う。私は、それを美しいと思った。
兄が苦しむ様子を、美しいと思ってしまう自分は、なんと愚かなのだろうか。何度もそう戒めたが、それでも兄を美しいと思う気持ちは変わらなかった。
その涙が頬で光るのが、とてつもなく悲しいのだ。深い悲しみが、深海のように暗く冷たい悲しみが、心を襲い、飲み込んでしまうかのようだ。
兄は、悲しいのだろうか。兄が魘されている間の記憶は、彼にはない。
目覚めればいつだって、ただ申し訳なさそうにいつも、微笑んでいるだけであった。

兄はひとしきり魘され、誰かの名前を呼び続けた後、静かになった。彼の身体は、深い海の底ように、冷たかった。
私は窓の外を見た。窓の外、世界が落ちていくのを見ながら、私は静かに目を瞑った。

E.I
関連記事
スポンサーサイト



[2015/10/02 14:16] | 終末の話 | トラックバック(0) | コメント(0)
<<無題 | ホーム | 終末>>
コメント
コメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバック URL
http://blacktime777.blog.fc2.com/tb.php/307-038b8696
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
プロフィール

砂糖娘 

Author:砂糖娘 
ツイッター→@IchiMiya131
気の向くまま、なんかのろのろ更新してます。
純愛もドロドロも好きです。

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
小説・文学
3048位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
オリジナル小説
714位
アクセスランキングを見る>>

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR